ロイスディーツ症候群に対する大動脈基部置換術 

 Valve-sparing aortic root replacement in Loeys-Dietz syndrome.   Ann Thorac Surg. 2011 Aug;92(2):556-60. Patel ND et al.

 

私的コメント

ジョンホプキンス大学のLDSに対するVSARの成績についての報告です。

1人を除く患者でバルサルバ付グラフトをもちいたDavidの手術が行われています。ジョンホプキンス大学においてのVSAR初期においてリモデリング法を行っていましたが、2002年からgelweave valsalva graftを使用しているそうです。またLDSにて4.5cm未満で大動脈破裂を経験したことを記載しています。これらの経験がガイドラインで4.0cmを手術閾値とする根拠となっていると考えられます。

またVSAR施行時、48.4%の患者で卵円窩の閉鎖、9.7%の患者でASD閉鎖が同時行われています。その他PDA,VSDの手術の同時施行もあります。合併症は術後の気胸が12.9%、肺炎が6.5%と報告されていますまた術後29ヶ月で、吻合遠位部の仮性瘤に対する手術を1例認めています。

 なお、弁自体の形態異常(二尖弁やASも含む)場合はベントールの手術を勧めています。術後のf/uCTMRIを半年後、その後年1回づつ。心エコーは術後1年までは3-6ヵ月毎、その後は半年毎、その他の全身の動脈瘤をf/uする時は年1回の頭部から骨盤部のCTを勧めています。

 

○要旨

背景

ロイスディーツ症候群(LDSは近年認識された、進行性の大動脈の異常をきたす病気で、大動脈基部瘤、動脈蛇行、隔離症、口蓋垂裂、偏平足等の症候をきたす。大動脈基部置換術(VSAR)をもちいたLDSに対する予防的治療の結果は明らかになっていない。 

 

方法

我々は臨床的、遺伝的LDSと診断され、われわれの施設VSARを施行された患者をレビューする。心エコーの結果と臨床データは院内外の記録をもとにした。

 

結果

2002-2009年の31人をLDSにてVSARを受けた患者を検討した。平均年齢は15歳、2477%が小児であった。13%が大動脈2尖弁であった。術前のバルサルバの径は平均3.9±0.8cmZscore7.0±2.9)、2人(6%)の患者において大動脈弁逆流が2度以上であった。30人(97%)でバルサルバグラフトを用いたreimplantion法(Davidの手術)が行われた。手術死は認めなかった。平均f/u期間は3.6年であった。(0-7年)1人の患者で吻合遠位部の仮性瘤に対する遠隔期の手術を必要とした。1人の患者でフロリダスリーブ術*からDavidの手術への変更が行われた。血栓塞栓症はなし、感染性心内膜炎はなし、1人(3%)で2度以上の大動脈弁逆流を認めた。遠隔期に大動脈弁形成や置換術を必要とした患者は認めなかった。

 

結果

LDSは進行性の大動脈瘤の症候群であるが低い手術リスクで大動脈弁基部置換術が可能である。LDSに対する大動脈基部置換術の初期中期成績はマルファン症候群の患者と同様勇気づけられる結果であり、若い患者に対して魅力的な治療オプションである。

 

*フロリダスリーブ手術という、デービッド手術の簡便型。

 バルサルバ付グラフトを外側から縫いつける手術、冠動脈バイパスの必要がない。出血が少ないが、nativeの大動脈基部にしわがよったり、冠動脈が圧迫される可能性がある。