ロイスディーツ症候群 臨床家のためのアップデート  

The Loeys-Dietz syndrome: an update for the clinician.

Curr Opin Cardiol. 2010 Nov;25(6):546-51. Van Hemelrijk C et al.

 

私的コメント

LDSの知見はさらに積み上げられていますが、この文献も大変ためになります。

Loeys-Dietz syndrome: a primer for diagnosis and management.” と比較すると面白いと思います。臨床症状については、この文献で示されているものの他に、消化器症状、アレルギー、頭痛等も重要になると思われます。現在の分類は原因遺伝子によっており、TGFBR1,2だけでなくSMAD3,TGFB2,3も原因遺伝子とされています。この文献では心エコーは半年に一回おこない、大動脈基部以外の動脈瘤を見逃さないためにベースラインの精査としてCTMRI行い、頭部から骨盤までの動脈を評価するように推奨しています。Table1にある外科治療の閾値について下記します。これらは前記の文献と異なる部分もありますが、参考になると思います。手術閾値を決める根拠となったデータを公表されていません。ロイス先生の未発表データ等も記載されており、興味深いです。

 

○要旨

評論(レヴュー)の目的

胸部大動脈瘤解離は西洋において重大な死因である。特に若い成人において、この疾患に対する遺伝的影響は大きく、というのは少なくとも5人中1人の発端者から動脈瘤、解離の家族歴を認めるからである。近年において、症候性、無症候性の大動脈瘤に認めるいくつかの遺伝子の同定において大きな進歩がなされている。

 

最近の知見

 このレヴューはある最近発見された胸部大動脈瘤の症候群、すなわちロイスディーツ症候群(LDS)の最近の知見に焦点をあてた。

 

 要旨

LSDはTGFβ受容体1,2 (TGFBR1 and TGFRB2)の遺伝子変異によって引き起こされ、進行性の大動脈、動脈疾患を特徴とする。臨床的な特徴、分子生物的な知見(発見)、病態生理学的なメカニズムを要約する。この病気の存在の発見は大動脈瘤疾患におけるTGFβシグナリングの鍵となる役割を確かなものとした。この病態の自然歴の研究は重大な教訓を明らかにしてきた。この動脈の病気は広範囲であり、すべての動脈セグメント、主要な分枝を出している動脈を含み、大動脈基部を超えて心血管系撮像が必要とされる。それどころか、マルファン症候群より小さな血管径にて解離が起こり、より小さな血管径での外科治療が必要とされる。LDSに対する最近の外科治療の成績は優秀であり、適切な時期に疾患を診断することにより、よい長期予後を提供している。

 

導入

LDSは常染色体優性遺伝で発症する結合組織病であり、広い範囲の臓器に起こりうる病気である。TGFβ受容体12遺伝子のヘテロな変異で発症する。(当事はまだTGFBR1,2の変異しか発見されていなかった。)この症候群は典型的には三兆である両眼隔離、口蓋垂裂または口蓋裂、大動脈/動脈瘤と動脈屈曲を特徴とする。LDS1型のおおよそ75%の患者が典型的な顔面の概観(口蓋裂、頭蓋骨癒合、両眼解離)を示す。LDS2型の典型的な顔面の概観を示さない(一部の患者で口蓋垂裂か両眼解離をしめしたが)、皮膚の症状(ビロードのような透明な皮膚、傷つきやすく、萎縮瘢痕をおこす)を示すものとされていた。しかし、最近においては2つの型は臨床的に連続しているものと考えられている。LDSは進行性の大動脈瘤と子宮破裂や死亡といった妊娠関連の合併症のリスクの上昇を特徴とする。だいこづ早期死亡の主な原因は(早期に報告された文献にて平均死亡年齢26.1歳と報告されている。)進行する大動脈の拡大、特にバルサルバ洞の拡大より、大動脈破裂や解離を引き起こす。罹患する動脈はは広範囲であることや、頭部や頸部の動脈の蛇行はLDS患者にしばしば認める。もし典型的な症状があればこの診断であると考えられる。家族歴は重要であるが新しく診断された患者の25%しか家族歴を認めない。つまり新規の変異が75%の患者に認められるということである。診断は遺伝子診断にて確認されGRBR122つの遺伝子のみLDSの原因遺伝子として明らかにされている。(現在はさらにSMAD3TGFB23も原因遺伝子とされている。)もっとも因果関係の深い変異はセリンスレオニンキナーゼ型受容体内、もしくは近傍のミスセンスである。これらの変異は分子レベルでは機能喪失は起こさないが、組織レベルでは動脈壁にてTGFβシグナリングを増加させる。

 

臨床症状

LDS4つの主な臨床症状で特徴つけられる。動脈の拡張と屈曲、骨格的特徴、顔面の形態異常、皮膚症状である。妊娠合併症も頻繁である。

 

整形外科

動脈の拡張と屈曲

バルサルバ洞のレベルでの大動脈基部の拡張はLDS患者の最も重大な臨床症状である。診断がついた時点で2/3の患者がすでに大動脈基部の動脈瘤を認め、事実上すべてのLDS患者でやがて大動脈基部の動脈瘤を認める。まれに孤発性の上行大動脈もしくは囲う大動脈瘤を認める。平均的に10歳代で大動脈拡大が確立される。診断時に1/5LDS患者が大動脈解離をすでに発症している(Loeysの未発表データ)。

TGFBR1,2の変異の患者のほとんどで動脈蛇行を認める。動脈蛇行はどこにでも起こりうるが多くは頭蓋内と頸部の動脈で起こる。ベースラインの精査はMRI3DCTにて最も行われる。頭部から骨盤内の動脈のスクリーニングが必要不可欠である。半分のLDSの患者がエコーにて観察できないところに動脈瘤を認める。

近年LDSTGFRB1の変異が冠動脈の微細血管の形成異常を起こし心筋症になりうるとがわかった。

 

骨格形態

LDSの骨格形態はマルファン症候群とオーバーラップする。関節の過弛緩、クモ状指、胸骨の異常(はと胸、漏斗胸)側湾症は頻繁に見られる。関節の弛緩を除けば足や手の指のこう縮(屈指)はLDSでよくみられる。偏平足はしばしば足首の内転と関係している。

手を広げた長さが身長より長いことはマルファン症候群よりはるかに少ない。ほかの良くみられる特徴としては頸椎の不安定と脊椎すべり症がある。近年、二人の若年LDS患者が軽い衝撃のさまざまな骨折により著明な骨格異常をきたしたことが報告された。

 

顔面形態異常 省

 

皮膚症状

皮膚症状はビロード上の皮膚、静脈が見えるほどすけるような皮膚、傷ができやすいなどの特徴がある。傷は治りにくく、傷は異栄養性になる。25%のLDS患者がこのような皮膚症状を示し、かつ顔面骨格異常を呈さないLDS2型と考えられる。

 (現在はこの考え方は主流ではないと思われる。(私的コメント)

 

その他 省略

 遺伝学 省略

 生理病理学 省略

 

Table1

 外科治療の閾値

 

小児

顔面か形態異常が高度

大動脈基部のZスコア>3.0もしくは急激な拡大(1年で0.5cm以上)

ただし、弁輪が1.8cmになるまでは待つ。

 

顔面形態異常が軽度

大動脈基部のZスコア>4.0もしくは急激な拡大(1年で0.5cm以上)

他の大動脈、動脈の手術閾値は拡大サイズと本来のサイズを参考に決定する。

 

成人

大動脈基部径>4.0cm もしくは急激な拡大(1年で0.5cm以上)

下降大動脈径>5.0cmもしくは急激な拡大(1年で0.5cm以上)

腹部大動脈径>4.0cm もしくは急激な拡大(1年で0.5cm以上)

他動脈の手術閾値は拡大サイズと本来のサイズを参考に決定する。