○マルファン症候群においてカルシウム拮抗薬によって課される有害な遺伝子環境相互作用  

A deleterious gene-by-environment interaction imposed by calcium channel blockers in Marfan syndrome.  Elife. 2015 Oct 27;4. Doyle JJ et al.

 

 

○私的コメント

 

基礎研究と臨床データを組み合わせた報告で、カルシウム拮抗薬をマルファン症候群や類似疾患に使用した際のリスクの可能性とその作用機序についての報告である。以前のガイドラインではβブロッカー使用困難な際のOPTIONとしてカルシウム拮抗薬を使用することを推奨していたが、この報告のデータを考えるとカルシウム拮抗薬を積極的に使いにくいこととなる。しかし、前向き試験を行った際も同様の結果が出るかどうかは不明であるし、基部置換術後のカルシウム拮抗薬使用も悪影響があるのかどうかなど、病態や病気の違いにおけるデータ等も不明である。カルシウム拮抗薬の結合組織病への使用推奨度は今後も検討を継続する必要がある。

 

 

 

○要約

 

カルシウムシウム拮抗薬はマルファン症候群の患者に対して 動脈瘤の拡大を予防するために処方されてきたが、効果と安全性に対するエビデンスは限られている。予想外なことにカルシウム拮抗薬にて治療されたマルファンモデルマウス動脈瘤の拡大と破裂と早期死亡が早まった。この効果はERK1/2ATⅡ受容体依存であった。我々はPKCβをこの経路の重要な介入物質と証明し、その阻害物質であるエンザスタウリンと臨床的に使用可能な降圧剤であるヒドララジンがPKCβとERK1/2の活性化抑制により、マルファン症候群マウスの大動脈の拡大を正常化することを示した。それに加えて、マルファン症候群の患者と他の型の遺伝的な胸部大動脈瘤の患者においてカルシウム拮抗薬を内服することは、他の降圧剤を内服している患者と比較して、大動脈解離のリスクと手術の必要性を上げる。

 

 

 

結果

 

ジヒドロピリジンカルシウム拮抗薬の効果、アムロジピン

 

WTMarfan症候群マウスは2-5月齢でアムロジピンかプラセボを処方された。容量はアムロジピン12mg/kg/day処方された。マウスは1ヶ月毎にエコーにてF/uされた。2-4ヶ月の月齢でプラセボが処方されたMarfanモデルマウスはWTと比較して大動脈基部拡大を示したが、予想外なことにアムロジピンがその効果を促進させた。それはWTMarfanモデルマウス両方に効果があったが、Marfanモデルマウスのほうが顕著であった。アムロジピン投与のWTMarfanモデルマウスは上行大動脈の著明な拡大を示したが、大動脈基部のちょうど末梢の部分であるが、人間やマウスのmarfan症候群における拡大部位としては一般的ではない部分である。アムロジピンに誘導された上行大動脈の拡大は大動脈基部の拡大の数倍にあたり、またマルファンモデルマウスにも感受性があると考えられる。それに加え、WTとプラセボ処方されたマルファンモデルマウスは3ヶ月の間死亡は認めなかったが、40%のアムロジピン処方のマルファンモデルマウスは大動脈破裂(血胸、血性心嚢水)にてなくなった。マルファンモデルマウスにおいてWTと比較して上行大動脈の壁肥厚、弾性繊維の断裂化、弾性繊維量の低下、コラーゲン置換の増加を示し、またそれはアムロジピンで促進された。WTにおいてアムロジピンは組織的なダメージを示さなかったが、マルファンモデルマウスにおいては優位なダメージを示した。興味深いことに下行大動脈にはこのダメージは認なかった。(「めず、拡大していない部位はTGFβのシグナル増加を認めなかった。」以前のアムロジピンの研究は1-5mg/kg/dayともっと低容量であった。我々はロサルタンと同様の降圧効果を得るために12 mg/kg/dayまでアムロジピンを「増やして研究をおこなったが、3mg mg/kg/dayの容量でも同様の結果を示した。

 

 

 

非ジヒドロピリジン径カルシウム拮抗薬:ベラパミルの効果

 

ベラパミルの効果を評価するため、我々は2-6ヶ月の月齢のWTをベラパミルで治療した。プラセボ群と比べて、ベラパミルはWTとマルファンモデルマウスの大動脈基部と上行大動脈の拡大認め、特にマルファンモデルマウスはそれが顕著であり、遺伝子型と薬剤の相互作用があると考えられた。WTの大動脈の構造にベラパミルが影響を与えなかった一方、マルファンモデルマウスにおいては上行大動脈の組織学的変化を質的にも量的にも促進した。アムロジピンと同様、ベラパミルもマルファンモデルマウスの下行大動脈に変化を認めなかった。

 

 

 

作用機序:プロテインカイネースC(PKC)の活性化の役割

 

ヒューマンの線維芽細胞や平滑筋細胞におけるTGFβ依存性の遺伝子発現はPKCを介すことがあり、PKC阻害薬はTGFβ依存性のin vitro, in vivoのフェノタイプや遺伝子の発現を抑制することが出来る。それに加え、これまでAⅡはPKC経てERK1/2活性化することを示してきており、TGFβともにこの過程を介することが出来る可能性がある。ウエスタンブロットの解析はPKCβ活性がマルファンモデルマウスにおいてWTと比較して著明に更新していることとTGFβ中和抗体とロサルタンはそれを現弱することを示した。これはERK1/2活性に対するそれらの効果とほぼ平行している。それに加え、マウスに対するアムロジピンの治療はPLCγ活性の増加(PKCβの上流)と関係するPKCβの活性と関連しその両方はロサルタンの治療効果を減弱する。これらの結果からPKCβとその上流の活性物質であるPLCγはマルファンモデルマウスにおいてTGFβとAT1レセプター依存性と推測できる。エンザスタウリンはPKCβに比較的選択性のあるPKC阻害薬であり、PKC媒介ERK1/2活性を阻害する。それはPKCのヌクレオチド三リン酸結合部位のATPと競合し活性を阻害する。エンザタウリンはアムロジピン治療マウスの上行大動拡大を著名に減弱させ、その効果はマルファンモデルマウスで顕著であった。ラテックス固定の画像もアムロジピン治療のマルファンモデルマウスの上行大動脈拡大の拡大を防ぐことを示した。組織学的検査にてもエンザタウリンはアムロジピンによるマルファンマウスの大動脈への有害な効果を質的にも量的にも減弱した。まとめるとこれらのデータはマルファンモデルマウスにおけるアムロジピンの誘発する大動脈瘤の増悪効果をPKCβを介して行われることを示唆する。プラセボマウスの大動脈瘤拡大PKCβを介しているかどうかを確かめるために、WTおマルファンモデルマウスに2ヶ月治療後に、大動脈基部拡張を評価した。これにより、エンザタウリンがプラセボマウスにても大動脈基部拡張を減少させることを示した。マルファンモデルマウスのほうがWTよりその傾向が強かったが優位差はなかった。ウエスタンブロットの解析は大動脈の拡張を抑えるエンザタウリン効果がPKCβ活性を抑制することと関連していることが確認された。それに加え、エンザタウリンはこれらの動物のERK1/2の活性をおさえることができることを考えると、この経路においてPKCβはERK1/2の活性をかいしている可能性が推測される。

 

 

 

ヒドララジン:マルファン症候群における新しい治療戦略

 

われわれは臨床利用可能な降圧剤であるヒドララジンに興味をもった、というのは耕会うつこうかがあるだけでなく、in vivoPKCβを介したERK1/2活性を抑制することが示されているからである。それゆえわれわれはWTとマルファンモデルマウスに対して2-6月の月齢において16mg/kg/dayのヒドララジンを投与した。この量のヒドララジンはわれわれのマウスの血圧を10-15%低下させた。WTと比較してプラセボ投与群のマルファンモデルマウスは大動脈基部の拡張をしめしたが、ヒドララジンで完全に防ぐことができた。

 

マルファンモデルマウスにおいてヒドララジンの効果はWTより強かったが優位差は認めなかった。ヒドララジンは大動脈壁の構造の改善に効果があったが、その効果はマルファンモデルマウスで優位であった。これはPKCβとERK1/2の活性化の低下と関連があり、この効果もマルファンモデルマウスで著明であった。PKCβ活性がマルファンモデルマウスにおいてWTと比較して著明に更新していることと、アムロジピンでそれが増悪する一方、」RDEA119ERK1/2の阻害剤)はPKCβ活性に影響がなかった。これから、PKCβはERK1/2の上流にありエンザタウリンやヒドララジンの効果はPKCβ介したERK1/2の活性化の抑制にあると考えられる。

 

 

 

人間の大動脈解離と外科の解析

 

GenTAC registryの臨床データを用いた。アメリカの5つの広範囲の地域を集約するセンターから(ジョンホプキンス大学、オレゴン健康科学大学、ペンシルバニア大学、ハウストン、ベイラー医大のテキサス健康科学センター大学、ウェイル、コロネル医大)から患者を募集された。12の胸部大動脈瘤関連疾患の患者、おもに、マルファン症候群、LDS、エーラス・ダンロス症候群、ターナー症候群、大動脈2尖弁、家族性胸部大動脈瘤の患者が登録された。解析は大動脈解離、もしくは大動脈基部、上行、弓部の手術に限られ、またその既往がある患者は除外された。カルシウム拮抗薬群は以前内服していたか、組み込み当時に内服していたことで定義とした。大動脈解離と手術は前向きに解析された。平均f/u期間はマルファン症候群で50.8±1.6ヶ月、ほかの胸部大動脈関連疾患で43.4±0.8ヶ月であった。マルファン症候群の患者は531人登録され、カルシウム拮抗薬群の大動脈解離におけるオッズ比は12.5(p=0.032)であった。収縮期血圧補正後、オッズ比12.7 (p=0.06)、大動脈基部径補正後のオッズ比は11.2(p=0.08)でもこの傾向は認めた。マルファン症候群の患者のカルシウム拮抗薬群の大動脈手術におけるオッズ比は5.5(p0.001)であり、これは血圧補正後(オッズ比は5.4 (p0.001))も大動脈系補正後(オッズ比は5.0 (p0.001))も同様であった。胸部大動脈瘤関連疾患の患者は1819人登録され、カルシウム拮抗薬群の大動脈解離におけるオッズ比は4.7(p=0.26)で増加はしたが統計的な優位差は認めなかった。大動脈手術におけるオッズ比は2.4 (p0.004)であり、これは血圧補正後(オッズ比は2.2 (p0.016) も大動脈系補正後(オッズ比は2.2 (p0.017))も同様であった。βブロッカー使用している(βブロッカー補正後)マルファン症候群、カルシウム拮抗薬群の大動脈解離におけるオッズ比は15.9 (p=0.045)で大動脈手術におけるオッズ比は5.7 (p0.01)であった。βブロッカー使用している(βブロッカー補正後)胸部大動脈瘤関連疾患、カルシウム拮抗薬群の大動脈解離におけるオッズ比は3.7で優位差なく、大動脈手術におけるオッズ比は2.0 (p0.026)であった。