○大動脈弁温存基部置換術後1015人の患者の生存と大動脈弁置換術の回避
Survival and freedom from aortic valve-related reoperation after valve-sparing aortic root replacement in 1015 patients. Interact Cardiovasc Thorac Surg. 2016 Apr;22(4):431-8. Kari FA et al.
○私的コメント
今までの多くの報告が単施設のものであったが、この報告は多施設の報告である。デービットⅠもしくはその変法の手術の成績は悪くはないと解釈していいのではないかと思う。ヤコブの手術(リモデリング)は弁輪を残しているから、弁輪拡大により再手術になるのであろう。LDSにおいては経験の豊富なチームの信頼できる先生に早期にデービットの手術をしてもらうのがよいと考える。ガイドラインにあるとおり、閾値は基部もしくは上行が4㎝、もしくは急速進行、かつ弁輪が2.0-2.2cmまでは手術を待つこと。予想以上(どおり?)に拡大が進むことがあるので注意が必要。ZSCOREも手術時期を決めるのに参考にしてもいいかもしれないかなと思います。
○要旨
目的
大動脈弁温存基部置換術後の死亡率、弁置換術の比率を多施設研究にて明らかにする事。
方法
1994年から 2014年の間、1015の大動脈温存基部置換術を検討した。(弁尖、交連部形成+が288例, 28%、弁尖、交連部形成-が(727例、72%)、リューベック (343例、34%)、シュトゥットガルト (346例、 34%)、ハンブルグ(109例、 11%) 、フライブルク (217例、21%)の4つのドイツのセンターの症例を検討した。年齢、性別で補正した一般人口と死亡率を比較した。ログランク検定と多重ロジスティック回帰分析が危険因子を識別するために使われた。
結果
平均観察期間は 5.2 ± 3.9 年。累積2933患者年の観察となった。初期生存は98%。NYHAの重症度と瘤径が中期観察の間の予測因子であった (P = 0.025)。大動脈弁置換術の回避は8年で90%であった。デービットⅡの術式(基部リモデリング)が再手術の危険因子であった(P = 0.015)。二尖弁と最初の弁機能は再手術と関連はなかった。追加の弁形成(弁尖、交連部)の必要性は再手術と関連はなかった。弁形成ありの症例では、大動脈弁置換術の回避は8年で84%、大動脈弁温存基部置換術のみ行われた症例では大動脈弁置換術の回避は8年で90%であった。マルファン症候群は死亡率、再手術と関連はなかった。
結論
大動脈弁温存基部置換術の患者の中期生存は一般人口と同等であった。二尖弁による大動脈弁閉鎖不全症は大動脈弁温存基部置換術のよい適応である。中期的に適切な結果を得るために、症状、もしくは巨大な瘤が出現する前に予防的な手術を行うべきである。
その他(この論文で紹介されたデータについて)
平均年齢は53±16歳。男性が74%。マルファン症候群が17%、2尖弁が16%。予防的手術の適応は大動脈基部もしくは上行大動脈径が50mm以上、もしくは大動脈閉鎖不全Ⅲ度以上。マルファン症候群ではリスクファクターがある場合45mm以上、2尖弁では家族歴や大動脈閉鎖不全に関係した適応のある場合45mm以上とした。
術式はデービットⅠが86%、デービットⅡ(ヤコブ、リモデリング)が14%であった。デービットⅠの手術はストレートチューブグラフトを1本使った。デービットⅡは死亡のオッズ比3.319、弁置換のオッズ比3.762といずれも高かった。本文に詳しく述べていないがfigure2にてLDSにてマルファン症候群、コントロール群と比較して弁置換術において優位差がでたとのグラフが示されている。